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大阪高等裁判所 昭和33年(ネ)1269号 判決 1963年2月25日

新儀農業協同組合

理由

一、被控訴人が(イ)昭和二七年一一月一〇日金額七五〇、〇〇〇円、支払期日同年一二月三一日、支払地滋賀県高島郡新儀村、支払場所株式会社滋賀銀行新儀支店、振出地右新儀村、受取人控訴人なる約束手形一通、(ロ)昭和二七年一一月三〇日、金額三一五、〇〇〇円支払期日昭和二八年一月二〇日その他の要件(イ)と同様の約束手形一通をそれぞれ振出し、控訴人はこれを訴外信達町農業協同組合に裏書譲渡し、同組合が、(イ)の手形を昭和二八年一月一六日(ロ)の手形を同月二〇日支払場所に呈示してその支払を求めたが、拒絶せられたことは、当事者間に争いがなく、控訴人がその後同組合に手形金を償還して、右各手形を受戻し現にその所持人であることは、被控訴人の明らかに争わないところである。

また、右各手形振出当時、訴外川妻又治が、被控訴組合の組合員であり、組合長理事であると同時に、訴外大高繊維株式会社の取締役をしており、右各手形は、同会社が控訴会社より買受けた商品代金の支払保証のため振出されたものであることも控訴人の争わないところである。

二、(イ)被控訴人は、右のように第三者のために保証手形を振出すことは、農業協同組合の業務範囲に属せず、かつ被控訴組合の定款第二条に定めた同組合の事業のいずれにも該当しないから、本件手形の振出は、組合の目的の範囲外の行為であつて、その責任はないと抗弁するから、この点を判断する。

成立に争のない乙第一号証によると被控訴組合の定款においては、組合員の事業又は生活に必要な資金の貸付、貯金の受入、組合員の事業又は生活に必要な物資の供給その他の事業ならびにこれらに附帯する事業を営むことを目的とすること明らかであるが、その四十八条一項では、右のほかに、組合員の利用に差支えない限り、組合員以外のものにも組合員の貯金の受入、その事業又は生活に必要な物資の供給等に関する組合の施設を利用させうる旨定めているから、組合員以外のものによるこれらの事業及びこれに附帯する事業の利用も当然に被控訴組合の目的の範囲内にあるものと解するを相当とする。

そして前記大高繊維株式会社の取締役である川妻又治が被控訴組合の組合員であることは当事者間に争なく、その代表取締役である川妻孫右衛門が被控訴組合の組合員であることは、被控訴人の明らかに争わないところである。そうすると被控訴組合が、組合員に対する資金貸付の方法として、或いはまた組合員の預金引出の方法として、直接組合員以外のものを受取人として手形を振出し、これを組合員ないし組合員の関係する事業主体の債務の支払確保の方法として使用せしめることもありうるのみならず、被控訴組合が、組合員以外のものより預金を受入れているばあいその預金の引出の方法として、直接第三者に宛てて手形を発行し、この手形を組合員以外のものの取引代金の支払を確保する方法として使用することもありうることであるから、本件各手形の振出はその客観的な取引の外形より見れば、被控訴組合の目的の範囲内にあるものといわねばならない。

(ロ) 被控訴人は、本件手形は、被控訴組合が控訴会社にたいし、訴外大高繊維株式会社の債務につき保証債務を負担し、これが支払のため振出されたものであつて、右原因行為たる保証行為は、被控訴組合の目的の範囲外のものであつて、無効であり、したがつて本件手形もまた無効であると抗弁し、被控訴人は、本件手形が被控訴組合の保証行為にもとづくとの点について、控訴人の主張に一致する主張をなしたことを撤回すると述べたのに対し、被控訴人は右は自白の取消であるとして異議を述べたからこの点につき審究するに控訴人が右のような主張をしたことは、本件記録中の控訴人の昭和二八年九月八日付準備書面第一項第六項、同年一〇月一九日付準備書面第三項に徴し明らかであつて、それは被控訴人の抗弁により自白たる効力を有するにいたつたことも昭和二八年一二月三日の準備手続調書及び昭和二九年四月二〇日の口頭弁論調書の経過により明らかであるけれども、控訴人の右主張は、当審における昭和三〇年六月四日の口頭弁論において控訴代理人の同日付準備書面により訂正取消されていること明らかであるにかかわらず被控訴代理人は、当日はもちろん同年七月二一日および同年九月二七日の口頭弁論期日においてもなんら異議を述べることなく弁論を終結するにいたつているのであるから、右自白の取消は、被控訴人の責問権の放棄により有効になされたものと、解さねばならない。当審における昭和三五年一一月一〇日の口頭弁論期日になされた被控訴人の異議は遅きに失するものであつて、これを採用することはできない。

よつて右保証契約無効の抗弁について判断する。

(証拠)によるも、いまだ右保証契約の成立は確認しがたく、また本件手形がいわゆる保証手形であるということから直ちに、当然、被控訴人主張の保証契約の存在を認めることはできないし、他にこれを認めるに足る証拠はなく、却つて証拠によると、「控訴会社は、訴外成田茂の仲介によつて昭和二七年一一月頃大高繊維株式会社に対し代金合計一〇六五、〇〇〇円に相当する糸を売渡したが、右取引については右代金支払を確保するため同会社から被控訴組合発行にかかる手形を差入れる、という条件で取引することとなり、代金支払のため振出された、大高繊維株式会社の約束手形の期日より後の支払期日を定めた本件手形が訴外成田茂を介して控訴会社に交付されただけである」という事実を認めることができる。したがつて右手形の原因としての保証契約の成立は認めがたくその成立を前提とする被控訴人の抗弁は理由がない。

そうすると、被控訴人は控訴人に対し、本件手形金合計一〇六五、〇〇〇円及びこれにたいする右手形の各支払期日後の訴状送達の翌日である昭和二八年四月一一日より完済にいたるまで年六分の割合による法定利息金の支払をなすべき義務あること明らかであるから、右請求を棄却した原判決はこれを取消。

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